「DX」という言葉がビジネス用語として広く知られるようになり、メディアで耳にする機会も増えてきました。日本では国レベルで企業のDX化を推進しており、重要性を認識したあらゆる企業がDX化を推し進めています。
しかし、「DX」という抽象的な言葉について、意味を勘違いしているケースも少なくありません。「そもそもDXって何?」「どんな事例があるの?」といった疑問を持つ人も多くいらっしゃるでしょう。
今回は、まずDXとは何かをお伝えするため、言葉の意味や背景、メリットを紹介し、企業にとっての必要性を整理します。また、実際にDX化を推し進めている事例も業界ごとにお伝えしていきます。国内のDX化を取り巻くさまざまな課題を理解し、これからの企業におけるDX化について考えていきましょう。
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DXとは何か?基本を理解しよう
DXが何の略かというと「デジタルトランスフォーメーション」の頭文字をとった言葉です。読み方は「ディーエックス」で「ITの浸透が人々の生活を、あらゆる面でよりよい方向に変化させる」という意味があります。
もともと企業に限定した言葉ではありませんでしたが、2018年に経済産業省が「DXレポート」を発表したことで多くの企業がDXを推進しており、現在ではビジネス用語として使用されているのです。
DX化が推進される背景にはデジタル技術によるビジネス環境の変化があり、古いシステムを使い続けることで運用に被害が出る「2025年の崖」問題を解決するためにも推進されています。
DX化の背景
企業のDX化が求められている背景は以下3つです。
- 競争の激化
- 消費者ニーズの多様化
- 労働力不足
1つ目に、先ほども触れたビジネス競争の激化が挙げられます。デジタル技術を導入して価値の高いサービスを提供する企業が増えており、あらゆる市場で競争が激化しています。企業が時代の流れに取り残されないようにする対策としてDXが求められているのです。
2つ目に、消費者ニーズの多様化が挙げられます。「体験」に価値を見いだす人やオンライン上で買い物をする人など消費者ニーズは多様化し、デジタル技術を活用したサービスも求められるようになりました。消費者にとって価値のあるサービスを提供するためにもDXは重要です。
3つ目に、労働力不足が挙げられます。少子高齢化で働き手が不足しているため、生産性を向上させることは多くの企業で早急に対応するべき課題です。DXで業務が効率化することで生産性を高めることができます。
経済産業省が推進するDXとは
経済産業省は2018年に1つめの「DXレポート」と「DX推進ガイドライン」を発表し、「DX推進ガイドライン」でDXを以下のように定義しています。
「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること。」
(※「DX推進ガイドライン」は「デジタルガバナンス・コード」と統合され2022年9月「デジタルガバナンス・コード2.0」として発表されています)
2019年には「DX推進指標」が策定され、DX推進における自社の現状や課題の自己診断が可能になったのです。
さらに2020年に「DXレポート2(中間取りまとめ)」、2021年に「DXレポート2.1(DXレポート2追補版)」と2つのDXレポートが追加されています。
DX化とIT化による変化の違い
IT化とは、デジタル技術を導入し業務の効率化を図ることです。DX化においても、もちろんデジタル技術を取り入れるため、業務の効率化を実現することができますが、それ自体が目的ではありません。DX化はデジタル技術を「手段」とし、ただ活用するのではなく企業体質など組織全体の「変革」が目的です。
つまり「店舗の各席にタブレットを設置し、利用者が好きなときに簡単に注文できるようにした」「ITツールを導入し、データ分析に費やしていた時間が短縮した」といった事例はIT化といえます。なぜなら、ビジネスの「変革」には至っていないからです。デジタルツールを導入し、業務の効率化を実現しただけではIT化に留まってしまいます。
デジタルトランスフォーメーションとデジタライゼーションの違い
デジタルトランスフォーメーション(以下、DX)と似た言葉にデジタライゼーションがあります。経済産業省は、「DXレポート2」の中で、デジタライゼーションを以下のように定義しました。
個別の業務・製造プロセスのデジタル化
経済産業省「DXレポート2」
つまり、デジタルツールを導入して業務のプロセスを最適化することを意味します。しかし、プロセスをデジタル化するだけではDXとはいえません。デジタライゼーションは、いわばDXの前段階です。繰り返しにはなりますが、デジタルツールによって新たなビジネスモデルを創出するなど「変革」を達成したときに初めてDXといえます。
「2025年の壁」問題解決のためにもDX化が推進される
日本企業が所有する既存のITシステムの多くは老朽化、複雑化しています。こうした状態のITシステムをそのまま使い続けると、以下のような問題が発生します。
- 市場の変化に対応できない
- 維持管理費が高額化
- 保守運用の担い手不足
消費者のニーズに合わせたビジネスが展開できなかったり、将来的に膨大な費用がかかったりする可能性があるのです。経済産業省は、2025年以降、年間最大12兆円の経済損失が生じる可能性があると公表しました。この「2025年の崖」の対策としてDX化が推し進められています。
DX化のメリット
ここまでDXとは何なのか、なぜ国を上げてDX化を推し進めているのか説明してきました。「2025年の崖」といわれるように、将来的に膨大な経済損失を出さないためにも日本企業は早急にDX化に取り組む必要があります。ここからは、あらためてDX化のメリットについて整理していきます。
DX化のメリット①業務効率化
新しいデジタル技術を導入することで、業務を効率的に進められます。デジタル化が進んでいるとはいっても、手入力でデータ登録・分析を行い、事務作業に膨大な時間をかけている企業も少なくありません。I Tツールを導入し、手入力を廃止することで、ヒューマンエラーがなくなるため、複数の入力チェックや修正をすることもなくなります。ルーティンワークの時間短縮が実現でき、より重要度の高い業務に専念することも可能です。
DX化のメリット②人件費削減
ルーティンワークをAIなどのデジタル技術で代行できれば、生産性が向上し、人件費を抑えることも可能です。実際に企業で使われているデジタル技術に「RPA」があります。詳細については記事の後半で説明しますね。新しいシステムを導入するとどうしてもコストがかかりますが、長期的な目線で考えると高い費用対効果が見込めるでしょう。
DX化のメリット③経済的損失からの脱却
先ほども触れましたが、DX化によって、「2025年の崖」といわれる経済的損失から脱却することができます。デジタル技術で消費者のニーズに合った新たなビジネスモデルを創出すれば、持続的な成長が可能です。従来のシステムにおける高額な維持管理費や保守運用ができる人材が退職していく状況を考えると、コストを抑える意味でも従来のシステムを見直すことは企業にとって重要な取り組み事項といえます。
DX化を行う際の問題点・課題
ここまでDX化のメリットをお伝えしてきました。さまざま企業がDX化の取り組みを始めていますが、中にはDX化の重要性を認識しつつも行動に踏み出せない企業や取り組みが進展しない企業も少なくありません。ここからはDX化を推進する上で、日本企業が抱える問題点・課題についてお伝えします。
DX化への金銭的コスト
DX化で長期的なコスト削減が見込まれる一方で、短期的にはどうしても金銭的なコストが発生します。導入するデジタル技術によっては、数百万円かかることもあり、DX化の推進を懸念する中小企業も多いでしょう。
そこで注目されているのが補助金や助成金の活用です。申請条件を確認し、条件に当てはまれば申請する流れとなります。また、SNSであれば無料でDX化の推進に取り組むことができます。CRMなど低コストで利用できるITツールもあるので、自社の予算や体制に合わせて検討するのがおすすめです。
現場からの既存システム変更による不満
経営者が新しいシステムを導入しようとすると、現場から反対の声が挙がるケースがあります。なぜなら、現場の仕事で手一杯の中、これまでの業務のやり方が全て変わってしまうことに不満を感じるからです。
こうした場合は、DXの重要性を伝えることが重要といえます。DXを推進していかなければデメリットが生じること、現場の業務効率化につながることを説明するといいでしょう。場合によっては代表が自ら説明する必要もあるかもしれません。経営層と現場の間に溝を感じたら、まずはDX化の重要性が分かる情報やデータを収集しておきましょう。
DX推進人材不足とその解決方法
2019年、経済産業省は2030年時点のIT人材について、最大79万人不足するという予想を公表しました。また、2022年に行われた総務省の調査によって、DXの課題に「人材不足」を挙げる企業が7割近く存在することが分かっています。
社内でDX化を推進するためには、IT人材の採用が必要不可欠です。しかし、国内全体のIT人材不足によって求める人材を獲得するのは難しいのが現状です。外部ベンダーに頼らざるを得ない企業も少なくありません。
DX化成功のためのポイント3つ
企業のDX化の事例を業界ごとに紹介してきました。新たなビジネスモデルを創出している企業もありますが、さまざまな障壁によってDX化の実現が難しいのも事実です。ここからはDX化成功のためのポイントを3つ紹介します。
IT化でDX化を終わらせない
DX化の推進に励む企業の中には、デジタルツールを導入して終わりになっているケースも多いです。経済産業省も「ある程度の投資は行われるものの実際のビジネス変革には繋がっていないというのが多くの企業の現状」と現状を分析しています。
まずは、DX化に取り組む前に、既存のシステムを新しくすることがDXではないということを理解しなければいけません。新しいシステムで企業体制やビジネスモデルも変えていかなければならないのです。
DX専門の人材を確保する
DX化の大きな障壁になっているのが「人材不足」でしょう。社内でDX化を推進するためには、DX専門の部署やリーダーが必要です。
繰り返しになりますが、そもそもI T人材が不足しており、新しい人材を発掘できないことも多いため、外部からの採用や社内の育成に取り組む必要が出てくるでしょう。育成をする場合はスキルアップのための社外研修や社内のOJTなど、IT技術の定着を図ります。DX化の推進を引き継いでいく体制を構築し、ノウハウを蓄積していきましょう。
従来のシステムの見直し
DX化を推進するためには、従来のシステムを見直すことも大切です。このとき、全体を俯瞰してみることを意識します。
現時点でどのような運用に人材やコストをかけているのか、このまま現在のシステムを維持するとどのくらいの維持管理費用がかかるのか、老朽化したシステムの数などシステムの問題点をすべて洗い出しましょう。問題点を把握したら新しいシステムの導入や不要な運用の廃止など対策を立てていきます。
DX化で使われる最新技術
常に進化を続けるデジタル技術。これまで多くの企業が最新技術を取り入れたサービスを展開し、私たちの暮らしを豊かにしてきました。ここではDX化で使われている最新技術を紹介します。
RPA(仮想知的労働者)
RPAとは、ソフトウェアロボットがPC上の業務を自動化するテクノロジーです。RPAは、これまで人間が行ってきたルーティン業務を代行します。具体的には、データの取りまとめや入力、情報収集といった単純な業務の代行が可能です。
的確な指示をすれば正確な作業を行いますが、イレギュラーが発生する業務には向いていません。PRAの導入によって、生産性の向上やコスト削減などが見込めます。
AR(拡張現実)
ARとは「Augmented Reality(アグメンティッド・リアリティ)」の略で、「拡張現実」といわれるテクノロジーです。PCで実際にある現実の上にCGなどさまざまな視覚情報を重ねることで、映像で見たときにCGなどが現実にあるかのように感じられます。近年はスマホゲームに用いられることが多いですが、店舗に直接行かなくてもデジタル上で視覚的にサイズを確認できる試着シミュレーションなどにも導入されています。
VR(仮想現実)
VRとは「Virtual Reality(バーチャル・リアリティ)」の略で「仮想現実」といわれます。現実にはないゲームなどの仮想世界に入ったような体験ができます。全方位を見渡すことができるため、現実に近い体験をすることが可能。VRを使用するにはVRゴーグルなどの専用の道具が必要です。火災時の避難訓練にVRを導入した事例もあります。
ビッグデータ
ビッグデータとは、容量、種類、発生・更新頻度が膨大なデータで、経済的な価値があるものを指します。単に大きいデータというだけではビッグデータとみなされません。ECサイトにおける購入履歴や問い合わせ履歴、会員情報もビッグデータです。このビッグデータをマーケティングに活用すると売上向上につなげることができます。
DX化の事例4選
ここまで、DX化の推進に伴う日本企業の問題点・課題について説明してきました。あらゆる問題が発生し、DX化の実現は難しいといわれていますが、デジタル技術で新たなビジネスモデルを創出する企業も存在します。ここからは実際の事例を業界ごとに分けて4つ紹介しますね。
事例①|農業での活用事例
人手不足や高齢化などの課題が深刻な農業においてもDX化は重要です。デジタル技術を活用した業務効率化が求められています。2021年には農林水産省が「農業DX構想」を取りまとめ、農業のDX化を推進しました。
株式会社オプティムは、ドローンを使用してピンポイントで農薬や肥料を散布する技術を開発し、すでに実用段階に入っています。当技術は、AIで病害虫が発生している箇所や追肥が必要な箇所を分析し、ピンポイントで作業することが可能です。時期や地域によって効果は異なりますが、当技術で農薬使用量は90%以上削減、農薬散布に伴う作業時間も90%以上削減したといいます。米の追肥についても、タンパク質含量が最適化し、品質の向上と均一化を実現しました。
事例②|アパレル業界での活用事例
アパレル業界のDX化で有名なのはZOZOTOWNです。2017年にはボディースーツ「ZOZOSUIT」のサービスを提供しました。これは、スーツを着てスマホのカメラで撮影すると簡単に採寸できるサービスです。その後、足のサイズを計測する「ZOZOMAT」も登場しました。
また、マルチサイズプラットフォーム事業(MSP)にも取り組んでいます。身長と体重を入力することで自分にぴったりのサイズの商品をおすすめしてくれる機能です。オンラインの買い物にありがちな「実際に来てみたらサイズが合わない」といった悩みを解消し、自分に合った服を購入することができます。
事例③|交通での活用事例
富山県朝日町が提供する「ノッカルあさひまち」は、博報堂が主体となって開発した「MaaS」による公共交通サービスです。「MaaS」とは、複数の公共交通機関から目的地までの移動を最適化し、予約や支払いを一括で簡単に行えるサービスを意味します。
「ノッカルあさひまち」は、地方における移動難民の増加や公共交通の維持といった課題を解決することを目指しています。当サービスによって、移動したいお年寄りを地域住民の車に乗せる仕組みが実現しました。ドライバーは専用のスマホアプリで自分の予定を登録します。利用者は電話やLINEアプリから予約が可能です。
事例④|医療での活用事例
メディカルデータカード株式会社の「MeDaCa PRO」は、医師と患者をデジタルでつなぐコミュニケーションツールです。当ツールによって検査結果をデジタルで早急に送付できます。さまざまな理由で通院が困難な場合でも精度の高い診療が可能です。
他にも、休診のお知らせが簡単にできたり、早めの来院を促進できたりとコミュニケーション面のメリットも多いです。また、診察時間の短縮によって診察件数が増えるなど医療機関側のメリットもあります。
こちらの記事でもDXの事例について詳しくまとめていますのでぜひご覧になってみてください。
まとめ
業務の効率化を実現し、コスト削減が見込めるDX。経済損失から脱却する対策として国が推し進めています。
しかし、現実には人的リソースやコスト面での問題やそもそもDXに取り組む雰囲気が社内にないなどあらゆる課題が発生しています。DX化の実現は困難ですが、デジタル技術で新たなビジネスモデルの創出を達成する企業も存在しています。私たちの暮らしに直結するDX。これからの動向に注目していきましょう。